楚の国に矛と盾とを売る商人がいた
商人はその盾を誉めて言う、
「私の盾は突き通せるものがないほど堅い」
商人はその矛を誉めて言う、
「私の矛はどんな物でも突き通せるほど鋭い」
ある人が尋ねる、
「あなたの矛で、あなたの盾を突くとどうなるか」
商人は答える、
「裁定の理由や詳細につきましては、個別にご案内を差し上げていない内容となります」
7月某日、ポケカにおいてとあるカードの裁定についての疑問が浮上しました。
これです。
いや、「これです」と言われても知らない用語しかないがと言われる可能性があるので順を追って説明します。
メレシーBREAKというのはメレシーから進化できるBREAK進化ポケモンの事です。BREAK進化のポケモンのカードは横向きになっており、ポケモンの上に重ねることで進化前の「ワザ・特性・弱点・抵抗力・にげる」を引き継ぐことができます。
BREAK進化ポケモンがカード単体で参照できるのはカード名、HP、タイプ、進化の状態等です。これらの情報は公式のQ&Aと問い合わせにより得られた事実を参考にして導き出したもので、こちらの詳細に関しては今回は割愛させていただきます。
このミュウは「グレートポケモン」と呼ばれる種類のカードで、通常のカードより強い効果を持っていることがほとんどです。名称やその他条件等については通常のカードと異なる点はありません。
特筆すべきはこのポケモンが持つポケボディー(現代で言うところの常動型の特性)で、「ロストゾーンのポケモンに書いてあるワザをすべて使える」という唯一無二の効果を持っています。今のポケカに持ってきたら悪い事をする気しかしませんね。
ここで初めに挙げたQ&Aに戻りますが、ロストゾーンに置かれているBREAK進化ポケモンのワザをミュウの「ロストリンク」で使うことはできないそうです。なんでや。
仮説①:ミュウがBREAK進化ポケモンを認識できない説
ロストリンクのミュウは2010年に登場したカードです。一方、BREAK進化は2015年に新たに追加されたギミックです。これにより、ロストリンクの効果対象の「ポケモン」にBREAK進化ポケモンを指定できないのではないかという仮説です。検証としては同一のミュウのワザ「よみおくり」で山札のBREAK進化ポケモンを選択できなければ仮説が証明されるでしょう。
検証結果
できるってよ。
まあ確かにこれができないとなると過去のカードはEXポケモンやらVポケモンやらを参照できないことになりますし妥当じゃないでしょうか。
仮説②:ワザを”持っている”が”書いてない”説
時代の変化により、昔のカードと最近のカードでは表記が違うことが多々あります。特に相手のワザをこちらのワザとして使うワザ*1の表記は、”書いてある”から”持っている”に変更されました。
この変更はBREAK進化ポケモンが登場した時代には既になされており、表記ゆれによる裁定の違いが生じているのではないかというのがこの仮説です。検証には以下のメタモンを使います(DPのカードは画像が不鮮明なのでURLを載せます)。
こちらのメタモンのポケボディーもまた”書いてある”ワザをパクるというものなので、これで相手のBREAK進化ポケモンのワザが使えなければ検証成功です。
検証結果
できるってよ。なんなら進化前のワザまで使えるってよ。
そもそも、表記ゆれで裁定が異なったら大問題な上に、表現としては”書いてある”の方が正しそうですよね。
仮説③:BREAK進化ポケモンのワザを参照できない説
上でBREAK進化ポケモンのカード単体で参照できる箇所について書きましたが、ワザの参照には触れていませんでした。というのも、カードそのもののワザを参照する効果自体が珍しく、範例を挙げにくいんですね。大抵は条件付きで「たねポケモン」のみを参照するとかなので問い合わせをすることすらできません。というわけで調べられないけど、もしかしたらBREAK進化のポケモンのワザって参照できないのではという仮説です。
そりゃロストリンクですら強いんだからそうそうカード単体のワザを参照できるカードなんて……
いた。
カラマネロ、お前は検証の柱になれ―
ザ ベストオブ ワンセットマッチ 青学サービスプレイ
いや、ご不明な点しかないけど?
ご存じの方がいらっしゃるかもしれませんが、ポケカの問い合わせって「どうしてですか?」っていう質問に対しては回答してもらえないんですよね。これは冒頭の茶番で挙げた通りです。
本当はミュウとBREAK進化ポケモンの話はLv.XやLEGENDのカード周りの裁定と合わせて「ジャッジのおしごと」としてブログに書く予定だったので、明確な説明ができない回答に頭を抱えていました。個別に案内してないなら公式からちゃんと公に発信しておいてほしいなぁ、Q&Aに同じような質問並べるくらいなら裁定ついての詳細を載せておいてくれよ、等と思いとりあえず他の裁定の問い合わせを投げたのがお盆前の8月頭の話です。
そこから約1カ月、音沙汰がありませんでした。
そして、9月中旬、ポケカサポートデスクからメールが届きました。まさか……
う、うおおおおおおおおおお!!!!
というわけで公式に謝られました。1か月何も連絡が無かったのでてっきり僕は面倒な質問をよこしてくる老害だと思われて公式にブロックされたのかと思いました。長い盆休みだなとか罵ってホントすみませんでした。
相変わらず理由については説明がありませんでしたが、これはBREAK進化ポケモンのカードの性質に依るものだと考えられます。このカードは他のポケモンのカードと異なり弱点・抵抗力・にげるの記述がありません。そのため、単体ではポケモンとしてなり得ず、カードのみを参照する際にはワザを選択できないのではないかと思います。つまり、「ポケモンのカード」ではあるものの「ポケモン」としての条件が不十分なために、カード単体ではワザを持っていない状態にあるのではないかということです。同じようなカードとしてLv.Xのポケモンがいますが、あちらには弱点・抵抗力・にげるの記述があるため「ポケモン」として認識できているのではないかと思います。今回のケースはむしろLEGENDポケモンの裁定に近く、上下を組み合わせるまでは両方に書かれている効果しか参照できない点が、ポケモンに重ねないとワザを使えない状況に似ているかと思います。
いずれにせよ裁定をややこしくしているのはBREAK進化とかいうギミックのせいという事が浮き彫りになりました。これから公式には変なカードを実装する際には明確な裁定を公表してもらいたいものです。
今回は主に殿堂のレギュレーションに関する話をしました。現代のレギュレーションにおいては必要のない知識かもしれませんが、ルールや裁定に関しては時代を問わず常に研究することが大切であると思っています。実際、カラマネロとBBREAK進化の裁定はエクストラレギュレーションでも目にする事のできる範囲の話でした。ジャッジとして活動を続けるなら自分の知識に磨きをかけるべきですし、新しいカードや効果を目にしたらすぐに裁定を気にする癖をつけておくのが良いと思います。また、正しい裁定を学ぶためにもポケカ公式のお問い合わせをフルに活用しましょう。公式の回答が変だな、と思った時は周りの人に相談してみるのもいいかと思います。
どうでもいいんですけど、今回の裁定の件が公式のQ&Aに載ってないのは悲しいですね、まぁどうでもいいんですけど。
終
*1:ややこしい